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日本刀~複数職人による合作~



はじめに

 日本刀は、刀身と(こしらえ)に分けることができます。刀身は刀工(刀鍛冶)、拵はたくさんの部品が結合してできており、(さや)は鞘師、(つば)は鐔師、金具は金工師というように、それを作る職人もさまざまです。

 ここでは、江戸時代、亀山宿内の商家であった家に伝えられた脇指(わきざし)を展示します。

 この脇指は、目釘(めくぎ)柄巻(つかまき)目貫(めぬき)が失われていることから、現状をばらばらにしています。

 このような状態で伝えられるものは、かえってめずらしく、日本刀が職人による製品の集合体であることをよりいっそう実感できます。

 また、その集合体の一要素である刀身については、第3(美との対話)ゾーンで太平洋戦争後に連合国によって接収された歴史をもつ赤羽刀(あかばねとう)を展示しています。こちらもあわせてご覧ください。



展示品目録

1.脇指刀身と(こしらえ)(亀山市歴史博物館石見雅之家寄託資料)

 江戸時代亀山宿の商家であった石見家に伝わっていた脇指です。石見家は紺屋を営み、石見甚左衛門は、天保三年(1832)に結成された紺屋株仲間亀山組に所属していました。また東新町の町代を勤める家でもありました。

2.脇指の(こしらえ)(亀山市歴史博物館生川家寄託資料)

 こちらは、脇指の拵を展示しています。装具はすべて揃っていますので、出品1とくらべていただくと出品1にどんな装具がないかがわかります。



各部分と職人の関係

1.刀身(ここでは脇指)

 この刀身には、銘文はありませんが、ものによっては、刀工の名前のほか、名前に花押を据えたり、作成年代や作成地などの銘文を刻んでいるものもあります。
 第3ゾーンで展示しています赤羽刀は、すべて銘文が刻まれています。

2.輝きの状態

 かつて刀研師に、日本刀の研ぎは点で研ぎ、包丁の研ぎは面で研ぐ感じだということを教えていただきました。
 だから、刀研ぎの工程では、曲面の砥石も使うということでした。つまり、曲面を曲面で研ぐことが点で研ぐという表現になるのでしょう。
 研ぎ方のちがいは、日本刀は、棟から刃までのかたちが肉厚で盛り上がっていますが、包丁は棟から刃までが直線であるという、かたちのちがいをあらわしています。
 研ぐという作業は、他の職人のように、ものを作るのではなく、作られたものを研ぐことなので、展示でご覧いただくのは刀身になります。
 したがって、研師が作り出したものは、刀身の「輝き」そのものといえるでしょう。

3.(さや)(つか)目釘(めくぎ)

 鞘や柄は朴木(ほおのき)、目釘は竹でできています。これらは、鞘を作る鞘師がてがけます。
 鞘や柄は、刀身のかたちに合わせて割ったり削ったりして、最後に貼り合わせます。このとき精巧な貼り合わせをするので、貼り合わせた痕跡がわかりません。
 展示しています鞘は、黒漆を塗っていますので、塗師(ぬし)もかかわっているということです

4.柄巻(つかまき)

 展示しています柄は、柄巻が失われています。そのため、鮫皮(エイの皮)がしっかりと確認できます。
 柄巻師は、これら鮫皮と柄巻を手がける職人です。

5.(つば)

 鐔は、鐔師が作ります。
 展示しています鐔は無銘です。
 鐔地は、色の感じから、銅と金の合金である赤銅でできているようです。
 鐔には、作成地や鐔師の名前が刻まれているものもあります。展示している鐔の(なかご)(あな)には、責金(せめがね)とよばれる金具が後付けされています。これは、この刀身に合わせた孔にするためのものです。

6.(ふち)(かしら)

 縁・頭は、柄につけられる金具です。鐔の方に付くのが縁で、反対が頭です。
 縁には金工師(きんこうし)の名前や作成地の銘文を刻むものもあります。銘文から、鐔師が作ったとわかるものもあります。

7.(はばき)

 (はばき)は、刀身の(なかご)につける金具です。この金具によって鞘が落ちずに固定され鞘の中でも刀身が固定されます。
 (はばき)を作る金工師は、白金師(しろがねし)とよばれています。
 (はばき)は刀身に合わせて作るので、刀身がちがえば、はまりません。

8.切羽(せっぱ)

 切羽は、鐔を上下ではさむ金具です。展示しています切羽には、金箔が張られていますが、長い年月の間にはがれてしまっています。
 切羽は、縁と鐔と(はばき)の間に位置し、それぞれを保護しています。



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